もう1週間前の話になるが、10年ぶりに幌尻岳に登ったので記録に残しておきたい。
今回は糠平川コース。
アプローチに使う糠平川が増水すると渡渉が困難になって停滞を余儀なくされるルートだが、それ以外は最も易しいようだ。百名山狙いの道外登山者が多い「定番ルート」だ。
情報は2024年7月12日~13日。
とよぬか山荘からシャトルバスに乗って
スタートは平取町のとよぬか山荘から。
名前が山小屋のようだが、廃校になった中学校をそのまま活用していて、宿泊もできる。
早朝に出発するシャトルバスに乗る場合や、年配者中心のツアーの方なら、ここで宿泊するメリットもありそうだ。
ウェブサイトによると、車中泊は禁止とのこと。
出発点のとよぬか山荘から登山口がある幌尻山荘までは、大きく分けて3つの区間に分かれる。
- 第2ゲートまでの林道(シャトルバスで約50分)
- 取水ダムまでの林道(徒歩8km)
- 幌尻山荘まで糠平川沿いの河原歩き(徒歩4km)
そこで、とよぬか山荘にマイカーを停めてシャトルバスに乗るわけだが、
- 往復のバス料金が7,000円
- 駐車料金300円
がかかる。この出費はかなり痛手だ。
では、シャトルバスに乗らない方法があるか調べてみた。
とよぬか山荘から6.5kmの位置に第一ゲートがあり、施錠されている。これ以降は一般車両の通行はできない。バイクや自転車も禁止されている。
では徒歩はどうか?調べた限り禁止されていない。第一ゲートの手前にも、かろうじて車両が停められる地積はある。
ただ、とよぬか山荘から第1ゲートまで6.5km、同第2ゲートまで21.6kmあるので、差し引き15.1kmの林道歩きとなる。第2ゲートから取水ダムまで8kmあるので、第1ゲートから完全徒歩の場合、合計23.1km、往復46.2kmの長丁場になる。
キロ8分くらいで走れたとしても、片道3~4時間のジョグとなれば、あまり現実的ではない。何より林道ではヒグマとの遭遇リスクがある。
ここは素直にシャトルバスに乗ろう。
林道歩きと河原歩きで幌尻山荘へ
いつもより装備が増えるので肩がこる。歩行ペースも捗らない。
第2ゲートから取水ダムまでは、はるか下に川を見下ろすように道が付けられている。道は広いが、足を踏み外せば一気に落ちてジ・エンドなので注意したい。
若干アップダウンがあるが、1kmごとに小さな看板が取り付けられているので、進捗が分かりやすい。ただ、話し相手がいないと退屈するだろう。
ちなみに平取町のふるさと納税の返礼品には、ガイド付きプレミアム登山があって、198,000円以上の寄付をすることで、林道の全区間を車両に同乗して移動することができる。つまり、徒歩のスタート地点が取水ダムになるというわけだ。
こういうのをズルいという人がいるが、私はそうは思わない。多額の支払いをした人がメリットを享受できる、誰も損はしないのだ。とやかく言うのは妬みでしかない。
今回、たまたまその車両と思われる3台とすれ違ったので、車両が通行することも想定しながら歩きたい。
取水ダムを過ぎると河原歩きが始まる。トレランシューズのまましばらく捲き道を歩くと、最初の渡渉点に到達する。
ここで沢靴に履き替える。
渡渉がメインなので軽量なマリンシューズでも代用できるレベルだが、私は安定性重視と冷水対策でフェルトシューズにネオプレーンのソックスで。
ふだんの山歩きでは短パン半袖ローカットシューズで軽装の私でも、沢を歩く時は長袖にタイツ、手袋とヘルメット着用、ダブルストックで安全安心を追求する。自信がないことには慎重になるものだ。
とは言え、幌尻山荘までの道のりは、特に難しい箇所はない。
楽しくなってわざと深い箇所も歩いてみる。
渡渉点はこんなに深くないし、随所にリボンがぶら下がっているので、ルートを外れることはないだろう。
しかし、平時でも決して水量が少ないとは言えないので、油断はできない。
幌尻山荘で一泊して翌朝アタック
1時間半くらいの河原歩きをして幌尻山荘に到着。
1階と2階を合わせて定員は45名とのことだが、この日は満員だった。
ここは完全予約制。事前に空き状況をチェックして予約をし、1泊3,000円の支払いも済ませておく。さらにトイレ使用料として現地で1,000円徴収されるから、現金を持参しなければならない。
したがって、とよぬか山荘からここまでで最低でも11,300円のコストがかかる。
管理人さんから一通りの説明を聞いて、指定された就寝場所に案内される。1名分がマット1枚分で、歩くスペースもないほどギュウギュウだった。
その他の要点は以下の通り。
- ザックや登山靴は向かって右脇にある倉庫に収納
- 沢靴などは小屋周辺に適当に置く
- 水は枝沢から引いたものが小屋前のシンクに流れていて、水量は豊富。多くの人が濾過機を通して取水していたが、私はそのまま飲む派
- トイレは24時間利用可能なバイオトイレが小屋裏にあるが、使えない日もあるとのことで、その場合は携帯トイレ使用となる
- ビール1缶800円
- 薄いマットが各自1枚無料で使え、毛布は有料で借りられる
- 消灯時刻は19時30分
- 備え付けのサンダルがあるので、準備して行かなくても大丈夫
私はダウンのベストを着てシュラフカバーで寝たのだが、満員だったためかそれでも暑かった。
毛布を3枚借りて、1枚は肌掛け、1枚はマットの上に、もう1枚は枕にするのがベターかもしれない。お金で解決するなら、シュラフやマットを持参せずに借りたほうがよいだろう。特に道外から来られる方々にとっては。
小屋前にはブルーシートが張られていて、この上で着替えやパッキングをしたり、食事をしたりなど、昔の運動会のゴザのように使う。
私たちはとよぬか山荘を10時40分に出発する最終バスに乗ってきたが、16時前には到着して17時にはビールを空けていた。
朝4時に出発してきた組や、前日に小屋入りでゆっくり歩いてくるツアーの方などは、この時間帯に下山してくるので、夕方は賑やかになる。
山頂は雲の中、諦めて早く帰ることに
当初の計画では、翌日は朝5時に出発するつもりだった。
しかし18時には就寝したので、深夜1時30分出発に変更した。寝る前にアタックザックの準備をしておいたので、朝食を取ってすぐに出発。
それに伴って、帰りのシャトルバスも17時出発便から12時出発便に変更してもらった。その手続きは幌尻山荘の管理人さんに伝えればよい。
5時、おそらく一番乗りで山頂到着。
4時になっても空が明るくならないと思ったら、やはり厚い雲の中だった。
遠方の視界はゼロ。北カールから吹き上げる風が強いので、山頂の東側で40分以上待機する。その間、新冠からも戸蔦別岳からも誰一人登って来ない。
待っている間、小さなビールで祝杯。行動中に飲むにはこのサイズがちょうど良い。
そう言えば、前回来た時もここで飲んだ記憶がある。
日高山脈が国立公園に変わったが、変わってないのは私が未だアル中だという事実だけだ。
諦めて帰路につく。
少し高度を落とすと北カールが見えて、一面はお花畑となる。残雪がまったくなく、今年は雪解けが早いようだ。
したがってお花が終わる時期は例年より早いかもしれない。こういうトレンドは地元で5月、6月と山に登っていないと気付けないから、毎週末自分で山に通って感じるか、SNSでチェックしておきたい。
時おりガスが晴れると、日高らしいキリっとした稜線が現れる。
ここ数年、大雪山系に偏重して登っていたので、こうした端正な峰々の姿に刺激を受ける。
6~7月中旬は残雪とお花見登山の大雪山へ、沢の雪解け水が減ってからは日高山脈、秋になって再び表大雪に戻ってくる、そんなサイクルが楽しい。
7時50分、幌尻山荘に戻る。4時出発のシャトルバスに乗ってきた人たちもポツポツ到着し始める。
昨日下山した人たちはみんな帰路についているし、今日登る人たちもみんな出発している。
床に残してきた荷物は、管理人さんがまとめて1階に下ろしてくれていた。予定通り、バスを1本早めて12時出発便に乗ることを告げ、山荘をあとにする。
ふだん沢歩きをしない私にとって、美しい渓相がとても新鮮に感じる。
スピードハイクと違って時間も手間もかかるので好きになれなかったが、歳を重ねて理解できるようになってきたのかもしれない。これからはもう少しこの分野も探っていきたい。
11時30分、シャトルバス乗り場に到着。
幌尻山荘を朝出発してきた人たちもすでに着いていた。
私たちよりも後続の人はおそらくいないはずだが、バスは定時にならないと出発しないので、20分ちょっと車内で待機、とよぬか山荘到着は13時頃だった。
あとは、びらとり温泉ゆからさんに立ち寄って汗を流し、途中でご飯を食べても高速道路利用で17時には札幌に到着できた。
あいにく山頂は雲の中で景色は見れなかったものの、林道歩き、河原歩き、一直線な急尾根、そしてカールとお花畑という日高山脈の深い味わいを感じることができたのでマル。それに日高ならではの、藪漕ぎもないので歩きやすい。
また北海道にはほとんどない有料の小屋泊りも体験できるので、それなりに費用はかかっても地元の岳人にも一度は体験する価値があると思う。