労災事故の分類から学ぶ登山事故の予防について

 

先日、職場で労災事故の教育を受けたとき、興味深い話があったのでご紹介したい。

 

これは登山事故防止にもつながる話なので、大いに参考になる。

 

労災事故の統計で、全業種の事故の型別発生状況で最も多いのは「転倒」であり、これは平成25年から平成30年まで毎年首位を独走している。

 

⇨中央労働災害防止協会:労働災害分析データ

 

で、その「転倒」についての話なのだけど、転倒によって骨にかかる負荷と骨の強度の関係について。

 

骨の強度は年齢によって弱くなるのはイメージの通りで、具体的な数値について学術的な論文もある。

 

⇨第54回日本老年医学会学術集会記録「転倒と骨折」

 

その一部を抜粋する。

 

”これまでに得られている大腿骨頸部の骨折荷重は、ヒトの骨を用いた破壊試験でもとめられてきた。若年者の大腿骨では 7,200 N(ニュートン)であるのに対して高齢者では 3,500 N に低下するという報告がある。これに対して、立位の高さから防御動作なしに転倒した場合に大腿骨近位部にかかる衝撃外力は筋肉弛緩時に 5,600 N、筋肉活動時には8,600 N に上昇する。これらのことから、転倒は高齢者の平均的な骨折荷重を優に上まわる荷重を骨にもたらす、すなわち骨折をもたらすことを示している。転倒による骨折を予防するためには、骨強度の増加による骨折荷重の上昇のみならず、転倒の予防、さらには転倒した際の負荷荷重軽減が必要である。”

 

つまり高齢者が歩行中に転んだ場合、まともに受け身を取れなければ、まず間違いなく骨折することを意味する。

 

これが登山中であれば、腕の骨折であれば何とか自力で下山することもできようが、足の骨折であれば、救助要請一択になってしまうということだ。

 

前述の引用文後半にあるように、転倒の予防、つまり転ばないことが何よりも重要だという結論になる。

 

登山事故の内訳はいったいどうなっているのだろうか?

 

警察庁生活安全局生活安全企画課による報告書によれば、令和元年の山岳遭難は発生件数2,531件、遭難者数2,937人にものぼる。

 

平成25年以降の発生件数は、毎年2,000件以上で推移しているという。

 

⇨令和元年の山岳遭難の概況(警察庁生活安全局生活安全企画課)(令和2年6月18日)

 

遭難者2,973人のうち、およそ半数が無事救助されているが、負傷者が1,189人、死者・行方不明者が299人もいる。

 

ちなみに、行方不明者が昨年だけでも32人いるということは、全国の山々に相当数の遺体が見つかっていない状態で、放置されているのかもしれない。

 

さて、遭難者2,973人のうち、「道迷い」の構成比が38.9%と圧倒的に高いところが労災事故と異なるものの、2位はやはり「転倒」で16.8%、3位は「滑落」で16.5%と続き、6位には「滑落」が3.0%ある。

 

私たちが抱く山岳遭難のイメージでは、雪崩や悪天候、落雷といったものが強いかもしれないが、実際のところそれらが占める割合は合わせても0.9%しかなく、病気(7.0%)、疲労(7.5%)よりも圧倒的に少ない。

 

話を「転倒」に戻すと、このデータでは態様別年齢層別の集計データがないのであくまでも推測の域ではあるが、年齢層別山岳遭難者60歳以上が全体の半数を占めていることから、単純に掛け算して試算した場合、60歳以上の遭難者のうち200人以上が転倒によって「遭難」していることが伺える。

 

登山は春から秋にかけて集中するので、ほぼ毎日1人のペースで「転倒」によって高齢者が「遭難」していると考えてもよさそうだ。

 

と言うことで僕らに出来ることは、

  1. 転ばないように注意しながら歩く(よそ見をしない、慌てない)
  2. ストックを持ってバランスを維持する
  3. 尻もちをついても背中の緩衝材となるように、荷物を入れてザックを背負う
  4. 靴の裏が擦り減った状態で歩かない

ちなみに、大人になってからバランス感覚を磨くのは難しい。

 

慎重に行動するのが何よりだと思う。

 

知円別分岐

⇨経験上、転倒しやすい場所は浮石が多いガレとザレのミックスだと思う

 

富良野岳

⇨走ると転ぶリスクも高まる。今の僕の年齢と走力では、走ったところでそれほど時間短縮にならず、むしろ転倒リスクを高めているだけだ。身の程を知る、身の丈にあった行動をするのが正しい。高齢者よりも、むしろ「若い感覚」が抜け切れていない中年のほうが、転倒リスクは高いかもしれない。

 

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