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中国で起きたトレラン事故の教訓から学ぶ

 

中国の甘粛省で開催されたトレランのレースで、21人もの死者が出たというニュースが話題です。つい最近の出来事なので事故の検証活動が終了していないと思います。あくまでも想像の範囲ではありますが、先だって教訓とできることがないか考えてみます。

 

まず背景を知るために、事故が起きた場所や気候に関心を抱きました。甘粛省っていったいどんなところでしょう?日本人にはあまり馴染みがないと思いますのでちょっと調べてみました。

 

省都は蘭州市で、話題の新疆ウイグル自治区ウルムチ市よりは東に位置しているものの、それでも青島市から蘭州市まで西に1,900km、北京市から1,400kmくらい離れています。

 

この辺りから想像するにこの時期は寒そうだなってこと。都会の蘭州市ですら標高1,600mの高所に位置し、1年の気温は北海道とあまり変わらなさそうです。

 

そう思って事故の死亡原因を調べてみたら、やはり低体温症だったそうです。誰もが山で一度はもの凄く寒い経験をしたことがあると思いますが、命まで落としてしまうというのはどういうことなのか、なかなか想像できないものです。

 

主催者側の安全対策云々について、外野にいる自分が意見をするには情報が少なすぎるので控えるとして、この事故に関する日本トレイルランナーズ協会鏑木さんのコメントが興味深かったので引用させていただきたいと思います。

 

(略)雨に降られるとまず選手は装備を重ね着したり、補給食でカロリーを取ったりして対策を取る。しかし強風と雨に長時間さらされたりすると、意識がもうろうとしてくる。そうすると、安全な場所に身を隠すといった命を守る行動が取れなくなることがある

 

この発言はツイートできるくらいの短かい文ですが、山岳遭難のエッセンスが凝縮されています。僕ら一般ハイカーにとって、非常に示唆に富んだ内容だと思うのです。

 

まず初期段階の話として、雨に降られたときの対応について。濡れること自体が大きなリスクだということ。これは汗をかいて濡れるのも一緒だと思います。

 

昨日、藻岩山から小林峠へ下りる途中で雨に降られたのですが、通り雨だと分かっていたので雨具を着ないでそのままやり過ごしました。行動開始からすでに3時間くらい経過し、しかも直前に15分くらい休憩したこともあり、かなり身体が冷えて手が相当冷たくなっていたのです。低山だからと言って甘く見れないものです。ランニングをする方ならお分かりいただけると思いますが、2時間くらい行動すると汗が引いて寒く感じることがありますよね。それが山歩きでもちょくちょく起きます。

 

その他にも、長い登りを終えて山頂に立った直後に稜線上のそよ風に吹かれて気持ちいいなぁ、と思っていたらいつの間にか体温が奪われてしまうような状況。

 

あとは、稜線上の雲の中で飽和水蒸気のつぶつぶ粒子によって濡れるパターン。

 

で、こういう場合はすぐに何かを着るというのはもちろんですが、身体を冷やさないために何か食べるというのも対策だと鏑木さんは言っています。僕なんかにはこういう発想がなかなか出てこない。特に男性は暑い寒いに鈍感ですし、お腹が空いたときになってやっと食べるという人も多いと思うのです。動き続けるのは補給のタイミングも大事だということなんですね。

 

それと、雨と風が同時に当たるような場面に差し掛かってしまったら、適切な判断ができるうちに行動をやめて停滞すべきだというのも興味深い話。例え身体が元気で防寒・防水対策が十分で栄養補給をしていたとしても、それでも配慮しなければならないということ。

 

そういえば新田次郎の八甲田山死の彷徨では、極寒の状況下で冷静な判断が下せなくなった大隊長(少佐)の様子が描かれています。意識がもうろうとするというのは、こういうことなのだと思います。

 

山岳遭難については、いつ自分の身に降りかかってくるか分かりません。

 

最近の山と溪谷の中では、遭難事故の事例について本人の回想や家族等によるルポルタージュが紹介されています。これは自分の事として考えるきっかけになるので、大いに役に立っています。

 

ヤマレコでも自身が起こしてしまった遭難事故について、勇気を出して共有してくれる方がたまにいます。インターネットはそのような生の情報にも触れる機会を生み出してくれるので、一つ一つの事故を他山の石として教訓にしていきたいです。

 

藻岩山

昨日の藻岩山山頂。青空が広がっていたのに、このあと一気に雨が降り出してみるみるうちに身体が濡れました。森の中にいるので木々の葉が雨を防いでくれますが、ある限界点に達すると一気に雨水が落ちてきて全身がずぶ濡れになります。