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かわいい社員にはひとり旅をさせよ

 

日本人のパスポート取得率はわずか17%なのだという。

 

単純計算して6人に1人しか外国へ行ったことがないことになり、実際はもっと少ないだろう。

 

自分の価値観を押し付けるつもりはないが、これは非常にもったいないことだと思う。成長のチャンスを自ら放棄しているからだ。

 

特に人格形成過程にある若い人はもちろんのこと、すでに世界観が定まってしまっている中高年にとって、海外旅行はよい刺激を受ける数少ない機会なのだ。

 

昔から可愛い子には旅をさせよと言うし、そのような体験をさせる親御さんも少なくない。

 

もちろん海外旅行にはお金がかかることも確かだ。相対的に貧しい家庭や固定費の割合が大きくて余裕がない家庭だって多いだろう。経済的な負担に関する問題はハードルが高い。

 

そこで企業がその役割を担うべきだと私は思う。

 

海外展開している企業であれば、若い社員でも海外勤務や出張を経験することはあるだろう。

 

しかし一般的な企業では海外出張に行く人は役職や部署が限られていて、特に中小企業では特定の役員クラスは航空会社の上級ステータスを持っているくらい渡航しているにも関わらず、それ以外の社員はパスポートすら持っていない、なんてことも多いのではないか。

 

正社員ですらこうなのだから、非正規で働いていたらなおさらそうだ。だから企業が社員の職位や職責に関係なく積極的に海外へ行かせるようなプログラムを用意すべきだと私は考える。

 

ちなみに私が過去に勤めていた会社では、現場で功績が認められた店長を全員集めて年に一度海外研修をするということが行われていた。

 

でも私がイメージしているのは、そういうご褒美で貰える団体旅行ではない。

 

例えばこのような職務命令を出す。ちなみに私の勤め先は食品会社なので、それを前提とする。

  • 3か月後の第一週の月曜~金曜の間に、単身シンガポールへ出張せよ
  • 現地で自社が関係する食品が使われている飲食店を訪問しなさい
  • 現地へ進出している日系企業チェーン店で食事をし、商品やサービスについて日本との比較を行いなさい

このように職務に関連することはあくまでも出張の名目なので、中身や濃淡は正直どうだっていい。

 

でも本当の趣旨は、気候や文化をはじめ日本との違いを肌で感じさせることだ。日々自分が所属しているコミュニティ(会社)が非常に狭い世界であるということを認識させることにある。だから次のようなルールにする。

  • 出張期間中の勤務時間は自由に決めてよい。
  • 規定の日当に加え、追加で上限〇万円までは費用として認める。ただし現地で消費すること。

この狙いは、いろいろな体験をさせることにある。シンガポールは物価が高いからある程度費用負担してあげないとできないことだってあるだろう。

 

制限は設けない。ユニバーサルスタジオで遊んだっていいし、マリーナベイサンズのカジノで遊んだっていい。日本ではできない体験をたった一人ですることに意義がある。孤独に耐えられないタイプの人なら、積極的に現地に友人を作ろうとするだろう。それはきっとかけがえのない財産になる。

 

ほとんどホテルの中に閉じこもっているよりずっとマシだ。

 

例えこの研修プログラムに一人30万円かかったとしても、費用対効果はかなり高いと思う。外部研修に行かせ、一時的な効果しか得られないような教育を受けさせるより、人間力の向上や感性を磨くような体験をさせたほうが、会社の発展にはずっと有用な成果を生むに違いないと確信している。