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富士山の入山規制に思うこと

 

富士山の入山規制の社会実験を、静岡県側の三つの登山道(富士宮、須走、御殿場)でも行うようだ。

 

すでに山梨県側の吉田ルートでは午後4時から翌午前3時は通行止め(山小屋に宿泊予定がある人を除く)とするほか、1日あたりの入山者上限を4千人とすることが決まっていて、静岡県側でも追随して検討に入ったものと思われる。

 

「弾丸登山」を防ぐことが主目的とのことなので、山梨県側と同様の内容となれば、富士山を深夜の時間帯に歩くことは事実上不可能になりそうだ。

 

確かに夜間に登山者のヘッドライトが山頂まで続いている様子は異様だ。富士山がLEDでライトアップされているかのようだ。

 

幾度となく弾丸登山をしている私が言うのもどうかと思うが、不眠状態でスタートするのは良くないと思う。ただ、早朝から登る場合だって、3~4時間程度の仮眠で登り始めることが多い。昔から登山は早立ちが基本であって、午後に歩くのは推奨されていない。登山愛好者で、毎回自宅や宿泊先でぐっすり眠ってから山に登りますなんて方は、ほとんどいないのではないだろうか?

 

私はこれまで十数回富士登山をしているが、日中に歩くこともあるし、夜間に歩くこともある。一昨年は富士市田子の浦の海岸から山頂を往復する企画にも参加させてもらった。その時も深夜に登って午前に下山した。

 

富士山の登山口は御殿場口を除くと標高が高いとはいえ、ハイシーズンは真夏である。日中に登るのは熱中症のリスクがある。

 

例えば平地の気温が35℃くらいまで上がる8月上旬に、午前8時以降に御殿場口から登り始めるのはあまり想像したくない。積乱雲が発生している中で13時過ぎに山頂に着き、それから下山してくるのもちょっと考え物だ。精神的にも焦ると思う。

 

もし今後、私がこの規制下で誰かを連れて行くとしても、やはり日帰りプランにするだろう。そうなると遅くても午前5時には発つ。沼津や御殿場で宿泊できれば4時にチェックアウトすれば間に合うが、神奈川や東京に泊まったならまだ暗いうちに発たなければならない。

 

そして富士宮口や須走口では、早朝のシャトルバスは相当混雑するだろう。国道138号線の渋滞を避けたり、バス待ちの行列に並ぶためさらに早朝から行動する。本末転倒になるかもしれない。

 

こうした入山規制は海外の山でも体験してきた。

 

台湾の高山帯ではオンラインで入山申請をしておかないと入山することができないし、山小屋や露営地の申請もセットで行わないとならない。しかし、山小屋は無料で利用できたり、格安だったりする。しっかり管理されているが、費用はほとんどかからない。

 

ボルネオ島のキナバル山は、現地ガイド同行が義務付けられているし、そこそこ高額な山小屋の利用も必須条件だった。山小屋のキャパシティが1日あたりの登山者の上限となるため、受け入れ人数はかなり少ない。でもそうやって環境を守っているのだろう。

 

富士山は世界中に名が知られている特殊な存在だ。そう考えると、入山者数の制限がなく、ルールがほとんどない今の状況は好ましいとは言えないだろう。

 

美しい富士山を守るために、将来的に厳しい管理体制下での登山が求められるべきかもしれない。

 

私達登山愛好者にとって少し遠い存在になってしまうのは残念ではあるが、私は富士山だけは例外にしてもいいと思う派だ。日本には山がたくさんあるし、今のところ入山に関してあれこれ厳しいルールがある場所は少ない。そこで遊べばいいじゃないか。