
先日、日高山脈のイドンナップ岳に登ってきた。
北海道の夏山のなかで、日帰りコース最長の部類に入るこの山。登山道が笹に覆われており、マダニも多いし、ヒグマとの遭遇リスクもある。さらに新冠からのアクセスも林道区間が長く、最近は林道の駐車ポイントから登山口までの作業道も流されてしまった。
こんなことから、普通は一度登ったら二度目はないと思うが、今回の山行は2017年以来8年ぶり2度目となった。
長い林道区間、新冠市街地から2時間の移動

林道区間が長いので、今回は軽トラをレンタルして札幌から向かう。
深夜2時に道の駅サラブレッドロード新冠で待ち合わせし、札幌方面に少し戻って道道209号を北上する。泉地区から道道を離れると早々にダート区間となり、新冠川沿いに岩清水ダムを目指す。ナビが無くても、Googleマップで岩清水ダムまでの道のりを案内させれば、その後は一本道なので深夜でも迷うことは無い。
長い道のりを経て、林道の駐車地点に着いたのは午前4時頃だった。
同行のMさんとはヤマレコのご縁。昨年から日高を中心にご一緒させていただいている。登山歴が10年弱ということで、体力的も技術的にも成熟し、今が最も楽しい時期だと思う。
北海道百名山完登まで残すところ一桁になったようで、大詰めの日高山脈で随行させていただいている。
一方の私はと言うと、登山再開から10年を超えてマンネリ化しつつある。50代になって体力も落ちつつある。
そこで、他者との交わりの中で何か新しい発見があったり、別の視点で山と向き合えるのではないかという期待をして昨年から随行を申し出た。
これからも自分が楽しむための登山は続けるが、並行して他者との山行にも関りたい。

さて、今日は誰とも会わないだろうと思っていたが、先行者が2名もいた。
うち1名はちょうど出発するところ。前夜からここで車中泊をしたとのこと。ソロでこの山に登るくらいだから、力量は間違いないだろう。
実際に私たちが新冠富士に到着したときには、すでにイドンナップを往復して戻ってきたところだった。おそらく10時間程度で往復したのではないだろうか。

サツナイ沢沿いの林道は流されてしまったようで、ほぼ跡形はない。
最初からあきらめて靴を濡らし、何度も渡渉しながら広い河原を進む。

河原沿いに捲き道もある。
ほとんど人が歩かないのに、オオイタドリやフキなど繁殖力が高い巨大な植物が相手となると、道はどんどん荒廃していく。

沢を詰め過ぎてしまい、15分くらいロスをする。
売山の作業道跡への取り付き地点は、時計の4時方向へ屈曲している。これに気付かなかった。
スマホに地図をDLするのを失念していたため、計画ルートから外れていることに気付けなかった。これは最大のミスであり、致命的だった。

ただ、第2岩場まで笹刈りされていたこともあって、前回来た時よりも登山道が明瞭で格段と歩きやすくなっていたのには救われた。
おそらく新冠ポロシリ山岳会さんによるものと思われ、とにかくこれには感謝しかない。

2017年5月に来た時は、完全に笹に覆われていた。
笹は地下茎で繁殖するので、登山道整備はまさにいたちごっこ状態なのではないか。整備がされている年はチャンス到来と心得たほうが良さそうだ。
なんと迂回ルートが!

尾根の右側にある笹斜面のトラバースが続くが、途中から新しく?迂回ルートの分岐があった。これは画期的だと思う。
同行のMさんとはパーティの体を成してはいるが、基本的に着かず離れずのソロ登山者の集まりだ。そこで結節ではお互いの姿を確認したうえで、次のミーティングポイントへ進む。これは私が勝手に決めたルールであり、同意を得ているわけではない。
ここの分岐点で待っていれば良かったものの、登山口で迂回ルートの話題になったことから大丈夫だろうと思い、待たずに出発してしまった。新冠富士を見通すと、それほど距離がなさそうだったことも、判断ミスの要因だったかもしれない。

新冠富士山頂が近付いてくると、一部にお花畑が見られる。変化が乏しい長い行程の合間にこういう癒しがあると、リフレッシュする良いタイミングになる。
そもそも登山は長時間にわたる運動だ。最後まで一定のペースを保ち、崩れることなく、計画通りのスケジュールで下山するためには、適切な休憩を取ることが大切だと思う。
休憩とは、活動を止めて心肺機能や足を休めたり、水分や行動食を取るというフィジカルなものだけではない。お花を見たり、景色を眺めたりするために立ち止まることも休憩の一つだと思う。それらは頭を切り替えてリフレッシュし、次の数十分の歩行を意欲的なものに変える効果があると思う。
どんな仕事でも、集中力を高めて生産性を上げるために、合間にコーヒーブレイクを入れたり、立ち上がって背伸びをしたりするなどしてリフレッシュをする。登山ではそんな当たり前のことを意識している行っている人は少ないように思う。まあ私もそうなんだけど。

イドンナップ岳の山塊のうち、最も南側にある1667ピークは新冠富士の愛称で親しまれる。
ここから二等三角点がある1747ピーク、そして最高地点の1752ピークまで登って、イドンナップ岳登頂となる。
ただ、この山塊の最高地点は、さらに北東にある1776ピークなのも確かだ。
新冠富士から最高地点へ

新冠富士から三角点方向を望む。最高地点はこの奥にあり、左奥に少しだけ見えている。
その手前の三角点までは途中で2つくらいコブを越えないとならない。
さらに左奥には幌尻岳がクッキリと見える距離にある。

1839峰からコイカクシュサツナイ岳の稜線。

前回来た時は稜線上の雪が繋がっていたので、苦労せずに歩けた。でも今回は期待できない。ハイマツや灌木との格闘を覚悟して飛び込むものの、日高にしては案外すんなりと歩けるレベルだった。
一方で今回最大の敵はそこではなかった。
暑さだ。
お昼前後の時間帯、カンカン照りの無風である。標高1,600mなので気温はそれほど高くない。しかしどうだ。ハイマツによって地表の熱が滞留し、足元から熱気がムンムン伝わってくる。これには参った。

チングルマ。6月末だけあって、終盤に差し掛かったキバナシャクナゲやウコンウツギから、ツガザクラやイワヒゲなど初夏のオールスターズが咲き揃う。

クリオネに見ると言われる新冠湖。手前側にイドンナップ山荘があり、それより向こう側の屈曲したあたりがイドンナップ岳の登山口だ。

新冠富士と最高地点との中間地点付近にある三角点。
山頂標識はこれより先にあり、標高が5m高いコブ上の最高地点に設置されている。同じ山塊に3つのピークがあるので、ついつい最高地点まで到達したくなるのが心情ってもの。三角点まで到達して帰る人は少ないのではないだろうか。
ここだけに山頂標識があれば、スッキリしたようにも思う。

イドンナップ岳山頂。新冠富士からの水平距離は僅かに1.5km程度だが、起伏があるので往復3~4時間を要する。

山頂から先の稜線。左手の少し高いピークが1776ピークで、この山塊全体の最高峰なのだそう。
尾根が広いので、雪があれば容易に行けそうにも見える。そんなことを言っている理由は、登ってみたいと思うからだ。
さらに奥にはナメワッカ岳があり、その奥の主稜線右手にはカムエクも見える。
快適に歩ける大雪山が楽しいのでついついそちらを指向しがちになるが、日高のような困難な山こそ、まだ50代のカラダが動くうちに深く追求した方がいいのかもしれない、と最近は思う。そんなことに気付かせてくれたキッカケは、やはり志向の異なる同行者がいたことだ。もし単独登山を続けていたら、今年も表大雪や十勝連峰にしか行ってなかったと思う。
新冠富士からの長い下山。登り返しも多い。

午後2時に新冠富士に戻ってからの下山。
南西方向へ下山する私たちと同期するかのように、太陽の位置も南西方向に移動する。暑さが憎い。
水2.3リットル、スポーツドリンク1.2リットル、その他にアミノバイタルを5個持っていたがバッファがなかった。今回の大きな反省点。
そして登り返しも多い。これほど何度も何度も登り返しをしないとならない山は、それほど多くないと思う。

鹿道が錯綜する新冠富士直下、笹のトラバース、第二岩場を過ぎれば、核心は越えたことになる。今回一番の問題は暑さによる水不足だったので、あとは売山の山腹を下って沢に出れば、下山したに等しい。
下山完了時刻は19時を過ぎていたが、まだ外は明るい。ここから長い林道を新冠市街地へ戻った頃には21時半頃になっていた。私はそのまま札幌へ帰り、帰宅は24時。衣類や登山用具にマダニが付着している可能性が高いので、ごみ袋に密閉したまま放置、自身はシャワーを浴びてすぐに寝た。
同行のMさんは、下山後にたぶん2度目はないだろうと話していたが、私も1度目はそう思ったものだ。
でも、今は3回目もあるかもしれないと思っている。4月下旬か5月上旬ころ、長い林道を歩いてテン泊をしてでも、もう一度あの稜線を歩いてみたいと思う。